ブラームス交響曲第4番の解説(ショートver.)

前回と同じく、中止になった2020年3月の演奏会のための文章。こっちはパンフレットに載せる予定でした。

ヨハネス・ブラームスの最後の交響曲、第4番ホ短調作品98の作曲のきっかけについて、指揮者ジークフリート・オックスは次のような証言をしている──1882年、ブラームスは友人たちの前であるJ.S.バッハカンタータの終楽章の低音主題をピアノで演奏し、その後楽章の一部を演奏した。そして「この主題に基づいて交響曲の楽章を書くのはどうだろう。もっとも、このままでは粗野で単純過ぎるので、いくらか手を加えなければならないだろう」と発言したという。

その後1884年から1885年にかけて作曲され、ブラームスの指揮、マイニンゲン宮廷管弦楽団により初演された。

作曲当時から見て古い技法、形式を多く採用しており、ブラームスの古典主義者としての一面が色濃く現れている。一方複雑な作曲法が扱われていることから、A.シェーンベルクは論文「革新主義者ブラームス」を発表しこの曲をおおいに称賛した。

 

第1楽章はソナタ形式で作曲されており、序奏なしでヴァイオリンがため息のような第1主題を提示する。このメロディは3度音程で下降し、また上昇していくという、後の音列技法を思わせる作曲技法で作られている。

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第1楽章冒頭の第1主題

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この後、ホルンとチェロが演奏する第2主題も哀切に満ちており、印象的である。展開部やコーダでは対位法(カノン)を用いた緻密な構築が聴かれる。

第2楽章の冒頭はフリギア旋法という、長調短調の音階ができる前に教会音楽で使われていた音階に基づいている。冒頭のホルンが朗々と吹き鳴らす主題は、クラリネットの落ち着いた第1主題、チェロが情熱的に歌う第2主題に受け継がれていく。

第3楽章はブラームス交響曲の中では唯一、2拍子のスケルツォが採用されている。快速なテンポと躍動感に満ちた楽章である。

第4楽章はバロック時代に多く作曲されたシャコンヌ(パッサカリアとも)というスタイルをとっており、J.S.バッハカンタータ第150番に使われた低音主題を一部変形して使用している。

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第4楽章のテーマ。下段は元となったバッハのカンタータ第150番の主題。

楽章は一種の変奏曲であり、主題と30の変奏、コーダからなるが、同時にソナタ形式としても解釈することができる。中間部では拍子が2倍に拡大され、長大なフルートソロ、トロンボーンによる明るいコラールが聴かれる。再び短調に戻った後は情熱的に進行し、第1楽章の主題も弦楽器のピチカートで再現される。コーダではさらにテンポを早め、一気呵成に曲を終える。

なお、初演の際、第3楽章のトライアングルを担当したのは若きリヒャルト・シュトラウスであったという。シュトラウスはリハーサルの後、父親にこのような手紙を書き送っている。

「彼の新しい交響曲は間違いなく大作です。着想と創意は素晴らしく、形式とフレーズ構造の取り扱いは輝かしく、抜群に勢いと力に満ちていて、新しく、独創的にも関わらず1から10まで完全にブラームスです。一言で言えば、われわれの音楽芸術を豊かにする作品です」

 

参考文献

ブラームス4つの交響曲』ウォルター・フリッシュ著,天崎浩二訳 音楽之友社 1999年11月

ブラームス 交響曲第4番ホ短調 作品98』ヨハネス・ブラームス作曲,野本由紀夫解説 全音楽譜出版社 2016年11月

『作曲家 人と作品シリーズ ブラームス』西原稔著 音楽之友社 2006年7月

George S. Bozarth and Walter Frisch “Brahms, Johannes”, Grove Music Online,2001.

Robert Pascall ”Symphonie Nr. 4 in e-moll, op.98”, Breitkopf&Hartel, 2012.

Kenneth Hull “SIX Allusive Irony in Brahms's Fourth Symphony”,”, University of Nebraska Press, 1998.